【Why we do?】OnSayはどうして生まれたのか?

創業10周年を迎えたLife2Bits
Life2Bitsが制作したアプリやサービス達はどのようなきっかけで生まれたのか?
不定期連載で振り返る特集記事シリーズ、その第1号は…


電話番号なんてもういらない。番号なしの無料通話アプリ『OnSay』

OnSayが掲載されたWIRED vol.2
その年、亡くなったスティーブ・ジョブス氏が表紙

アプリ公開から約9年の時を経て、OnSayのアプリ開発担当プログラマであり、
そもそも電話アプリの開発に取り組むきっかけを作った樋口克弘(現 RAG BE Inc. 代表, 当時 utari Inc. 共同創業者)にインタビュー。
一緒に、当時を振り返って頂いた。

※特集インタビュー記事シリーズ【Why we do ?】は、ライフツービッツが制作に関わったプロジェクトのキーマンに半ば強引にインタビューさせて頂き、当時の我々は何を考え、なぜこのプロジェクトをやろうと思ったのか?ふり返りながら、皆様に知っていただこうという不定期連載特集記事です。


波乱の幕開け

2011年8月31日
ITmedia NEWSが報じた1つの記事が、事態を一変させる

Twitter仲間と無料で通話――電話番号不要のiPhone向けVoIPアプリ「OnSay」

この記事掲載から数時間後、すなわちアプリ公開から約半日後、OnSayはApp Storeの無料アプリカテゴリで1位を獲得

約3日間、ランキング一位

上記のITmediaの記事をきっかけに、想定外の大量ユーザーがアプリに殺到。
OnSayのサーバは初日からパンク状態となり、アプリのレビューは荒れに荒れる……
それでもそこから約3日間、アプリはランキング一位に貼り付いたままだった。
わずか3日間で約18万人のユーザーが、この奇妙なアプリOnSayをインストール。
2011年夏、まだiPhoneもTwitterも今ほどの普及をみせる前の黎明期だった。


OnSayはなぜ生まれた?

——Q.
お久しぶりです。懐かしいですね、ここ。
※場所:渋谷マークシティ内エクセルシオール

樋口氏:
当時は、よくここで打ち合わせしてましたね。

樋口克弘氏 (写真・右 / 現 RAG BE Inc. 代表)日本の音楽やあらゆるコンテンツを世界へデジタルを通じたコンテンツ流通に取り組む https://www.ragbe.com/


今日は、OnSayをどうしてやろうと思ったのか?
一緒に振り返って頂きたいのです。
実は結構、経緯を忘れちゃってまして…覚えてます?

樋口氏:
細かい時系列はあやふやなんですが、ターニングポイントとなった出来事が2つあったのを覚えています。
1つ目は、当時『妄想電話』っていう架空の彼女らしき人と電話する風のアプリが出てきて、実際の人じゃなくて架空の人と話すって面白いねって話をしていて・・・・・・

——Q.
あー、ありましたね!懐かしい!
人間ってリアルの知り合いじゃない架空の人間からの電話で癒やされちゃうって面白いね、って話してました。

樋口氏:
で、自分が、「だったら実際の電話で作ってみたら面白そうすね」って話したのを覚えています。

——Q.
そうでした!そうでした!「それ面白い!じゃあ、とりあえずVoIP電話作れる人を探そう!」ってなりました。

樋口氏:
で、横浜のとある会社さんに相談に行ったら、組んでもらえなくて・・・
帰り道に電車の中で、「じゃあ自分が試しに作ってみますよ」って。

——Q.
そうでしたね!帰りの電車でションボリしてたら、樋口さんがやってみるって言ってくれて、嬉しかったの思い出しました(笑)

樋口氏:
もう一つのポイントは、3.11ですよね。

——Q.
ですね。これが最大の転機でした。
樋口さんが作ったVoIP電話アプリのプロトタイプで、はじめて通話したのは、たしか3.11の数日前でした。
お互いにアプリインストールして、「おー、つながるつながる!めっちゃ音キレイじゃん!」って喜んでましたね。

樋口氏:
当時、一緒に作っていたecolien(※1)が、3.11の影響で無期限延期になってしまったのも大きかったです。
※1 エコリアン Life2Bitsとutariで共同開発していた位置情報ゲーム。foursquareのAPIを利用した国内唯一の位置ゲームとして2011年3月にリリースを予定していたが、3.11の影響で東北地区のスポット情報が利用できなくなり、アプリリリースは無期延期に…)

——Q.
なんでTwitter電話になったんでしたっけ?

樋口氏:
それは片山さんが言い出したんですよ(笑)
もちろんecolien(※2)を開発していたのも大きかったですが。
※2 ecolienはユーザー認証をTwitterアカウントで行い、ユーザーの現在地を任意でTwitterにも投稿する機能を持っていた

——Q.
そうでした。思い出してきました。やっぱりこういう(振り返る)企画大事ですね(汗)
3.11当日、自分は外出していて、電話が全く通じなくて……
Life2Bitsの他のメンバーの安否確認はTwitterが一番早かったんですよ。
それでTwitterというか、インターネットってすごいなと。

樋口氏:
ホントですよね。
ecolienは無期延期になってしまったけど、Twitter認証するecolienがあったからOnSayはあれだけ短期に作れました。

——Q.
震災後、電話がつながるようになって樋口さんに電話したのは覚えています。
「やっぱりVoIP電話アプリ作ろう!」って。
いざという時全然つながらない電話は意味ないし、そもそも電話番号知らなきゃ電話できないっておかしくないか?って。
それで、Twitterのユーザー同士をつなげてしまおう!ってなったのでした。

樋口氏:
はい。
そこからチームメンバーを集めだして、動き出したのが5月くらいでした。
最大のボトルネックだったVoIPサーバ周りも、サイトウさん(プロジェクト・ゼロ)がジョインしてくれました。
今から考えるとすごいメンバーが集まりましたね。

——Q.
当時、Life2Bitsはnhnさん(現 LINE)にお世話になっていたのですが、「OnSayって、そんな少人数で作ってるの?」ってビックリされてました。
まだLINEも通話機能がない時代でしたね。

樋口氏:
しかも全員、片手間というか、別の仕事もしながら実質3ヶ月くらいで作ってました。

——Q.
ところで、OnSayを一緒にやってみてどうでした?

樋口氏:
ふりかえるととてもいい経験をさせてもらったな、と思っています。
App Storeのランキングを更新するたびに、順位がグイグイ上がっていくので……

——Q.
facebookもGoogleもTwitterも全部抜き去りましたからね。3日間だけだけど(笑)

樋口氏:
アプリをリリースした日は、ウタリのメンバーで代々木の公演で缶ビールで乾杯したの覚えてます。
当時はどこに行っても「チャレンジャーな事をやってるね!」って褒めてもらって。

——Q.
電話会社系出身なのに、思い切り「電話番号なんていらない」って言っちゃってますしね。

樋口氏:
後から聞くと、いろんな方がTwitterで面白いって推してくださっていたみたいです。
特に同業者からの反応がすごくて、それが周囲に広がっていった感じでした。
そういえば、猪瀬さん(元東京副知事)も防災に使えるかも?ってtweetしてくれてましたね。

——Q.
3.11を体験して、自分たちにも出来ることはないのか?って、当時はいろんな人が真剣に考えましたよね。
考えざるを得なかった……
我々も、せっかくアプリを作れるのに、なにか自分たちにできることやろうぜ、って感じでプロジェクトは始まりました。
ひとまず3ヶ月でアプリ作って、その後のプランなんて何も考えてなかったけど……

樋口氏:
楽しかったですね。

——Q.
もうそろそろ、またなんかやりましょうよ。

樋口氏:
いいですね。なんかアホな事やりたいですね(笑)


その後のOnSay

OnSayは、App Storeで一位を獲得した後も、ダウンロードを順調に伸ばしていく。
広告宣伝はいっさいやっておらず、全ては人々の口コミによるバイラルだった。

2011年末、OnSayはWIREDの記事をきっかけに、各新聞雑誌TV等で取り上げられはじめる。翌年には、Mobile IT Award特別賞もいただいた。
海外からのアクセスも増えていき、勝手にアラビア語の翻訳ファイルを送ってきて、これを実装してくれという猛者ユーザーも現れた。

一方で、同年にskypeはマイクロソフトに買収され、LINEも無料通話に参入しTVCMを開始。
Mobile VoIP市場は、一気に巨人達が真っ向からぶつかりあうRed Oceanと化した。

それから数年が経った2017年。
OnSayはその役割を終え、静かにサービスを停止。


(編集後記)

”まだないサービスを開発し、世の中をアッと驚かせて、豊かに便利にする”

ふりかえってみると、Life2Bitsが設立初期に取り組んだOnSayには、その後の指針となる想いがたっぷり詰まったプロジェクトだった。
2011年という時期もそれを後押ししたのだろう。
残念ながらVoIPアプリとしての役割は終えてしまったが、OnSayを通じて出会った仲間はとても多く、支えてくださった支援者の方も数多い。
会社設立後の一番不安定な時期に、一番不安定なチャレンジができたのは、樋口氏をはじめとした仲間に恵まれたおかげだと、久々にお話させて頂いて再確認する事ができた。

今でも時折、OnSayのfacebookページには、国内外からのいいね!やメッセージを頂くことがある。
当時イメージしていたVoIPの未来からすると、少し実際の歩みが遅いようにも思える。
いずれまた、新しいコミュニケーションサービスにチャレンジしてみたい。
その時には、Life2Bitsの仲間とともに、樋口氏にも真っ先に相談にいきたいと思う。

渋谷のスクランブル交差点にて、樋口氏と(写真左)







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